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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)679号 判決

控訴人(被告・反訴原告) 六ツ崎道文

被控訴人(原告・反訴被告) 株式会社 社会保険新報社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人は被控訴人の従業員としての労働契約上の権利を有することを確認する。被控訴人は控訴人に対し一か月金一二万六〇〇〇円を昭和五〇年六月から毎月二五日限り支払え。被控訴人の本訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び金員給付について仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に訂正、付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決一二枚目表九行目の「不当」を「権利濫用」と、同裏二行目の「ところが、」を「そこで、かつて議員と被控訴会社従業員とを兼ねたことのある控訴人は、選挙で当選しても解雇されることはないものと考えていたところ、」と、同裏七行目から八行目までを「被控訴会社代表者は、控訴人の公職就任が解雇事由になるというのであれば、控訴人から立候補の承認を求められた際そのことを告げるのが労働契約当事者の信義則上の義務であるのに右義務を尽さず、かえつて激励をし、会社として選挙運動に協力、援助しておきながら、控訴人が当選するや直ちに解雇したのは信義に反し権利濫用であり、また本件解雇後組合との交渉において、被控訴会社は解雇の理由さえ明確にできない中で、解雇を認めなければ、話し合いに応じないという態度に固執し、組合の雇用継続を前提に労働条件の変更について協議しようという申出を拒否していたのであるから、この点からも本件解雇が権利の濫用であることは明らかである」と、それぞれ改める。

二  (証拠省略)

理由

当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由がありこれを認容すべきであるが、控訴人の反訴請求は理由がなくこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決二一枚目表六行目の「の証言」を「、同田中知二(第一回)の各証言」に改め、「原告会社代表者」の次に「(原審第一、二回)」を、「被告」の次に「(原審第一、二回及び当審)」をそれぞれ加え、七行目の「(各第一、第二回)」を削る。

二  同二四枚目裏三行目の「弁論の全趣旨により明らか」を「当裁判所に顕著」と、それぞれ改める。

三  同二七枚目表四行目の「第一五号証、」の次に「乙第二四、第二五号証、」を、五行目の「原告代表者」の次に「(原審第一、二回)」を、六行目の「告」の次に「(原審第一、二回及び当審)」をそれぞれ加え、同行目の「(各第一、第二回)」を削る。

四  同二八枚目裏七行目の「証言」の次に「(原審第一ないし第三回及び当審)」を、「尋問の結果」の次に「(原審第一、二回及び当審)」をそれぞれ加える。

五  同三〇枚目表三行目の「資格があつて、」の次に「右議員就任時において」を加え、「取得しうる」を「取得し得た筈である」と改め、五行目の「である。」の次に「(なお原審第二回控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は昭和五四年三月当時一か月九万円の老令年金の給付を受けていたことが認められる。)」を加える。

六  同表九行目の「被告が」から同裏四行目までを次のとおり改める。

「控訴人は、本件解雇の予告期間満了直後に、被控訴会社から退職勧告に任意応ずるならば、解雇は撤回しかつ爾後は臨時職員或いは嘱託として勤務してもらつてよい旨の申入れを受けながら、これを拒絶したものであつて、被控訴会社は控訴人の労働条件の変更、収入の減少については十分配慮していたことが窺われる。」

七  同裏五行目から同三一枚目裏三行目までを削り、四行目の「5」を「4」に改める。

八  同三二枚目裏三行目と四行目の間に次のとおり加える。

「控訴人は、被控訴会社代表者宮崎が控訴人の市会議員選挙への立候補を承認し、激励し、会社としても選挙運動に協力、援助しながら、控訴人が当選するやこれを理由に控訴人を解雇するのは信義に反し権利の濫用である旨主張する。なるほど成立に争いがない乙第八、九号証及び原審における被控訴会社代表者(第一、二回)、並びに原審(第一、二回)及び当審における控訴人各本人尋問の結果によれば、宮崎は、控訴人から市会議員選挙への立候補について挨拶を受け、その際特に立候補に対する異議をさしはさまずに選挙のための休暇を承認し、激励とみられる言葉で応待し、当選した場合は退社すべきこと又は解雇されるべきことを示唆することさえしなかつたこと、また選挙運動中村西専務取締役ら被控訴会社の有志一同が陣中見舞を贈つたことが認められるけれども、宮崎ないし被控訴会社有志一同の右言動は挨拶又は報告を受けた者の儀礼以上の意味をもつものではないというべきであり、宮崎らの右言動があつたからといつて、それゆえに前示の事由(市会議員に当選したことのみを事由とするものではない。)で控訴人を解雇することが信義に反し、権利の濫用に当ると解することはできない。また、控訴人解雇後の組合との交渉経緯に関する控訴人主張の事実についても前記認定事実に照らすときは、理由がないこと明らかである。

よつて、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島恒 真榮田哲 塩谷雄)

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